~ヴェネチアン・グラスを彩る海の生き物たち~
会期:2022年4月29日(金)から9月4日(日)まで

はじめに
装飾に見られるイルカや龍の源流

ヤコボ・デ・バルバリ「ヴェネチア俯瞰図」(部分) 1500年
ヤコボ・デ・バルバリが1500年に制作した木版画「ヴェネチア俯瞰図」には、既にイルカにまたがった古代ローマの海神ネプトゥヌス(英:ネプチューン)がヴェネチアの運河を行く姿が描かれています。ヴェネチアが海上貿易で富を築き、海に愛された都市であった証のように、絵画や工芸などにネプトゥヌスやイルカ、そして海神の馬車を引く海馬(タツノオトシゴ)が表され、ヴェネチアン・グラスでも装飾に取り入れられるようになりました。
また19世紀、万国博覧会などをはじめ、東洋の文化がヨーロッパで広く紹介されるようになると、それらは美術界にも大きな影響を与えました。ヴェネチアでも、東洋の美術品などに見られる龍の姿から着想を得、ガラス器に巻き付く龍の装飾が広まったとされています。
ヴェネチアン・グラスに表現されたイルカや龍の装飾は、実に愛らしく造形も細やかで、熔けたガラスを自在に操り形作るホットワークと呼ばれる職人の熟練技術によって生み出されています。徐々に冷えて固まるソーダ・ガラスの性質が生き物の曲線的な形体に生かされ、まさに水の都を象徴するヴェネチアン・グラス装飾の一つとなりました。
ラグーナに暮らす生き物と愛らしい魚たち

ヴェネチア 魚介のアンティパスト
ヴェネチアの歴史は、5世紀頃、異民族の侵略から逃れるために干潟地帯(ラグーナ)に避難した人々から始まります。以後、街の発展と共に埋め立てが進み、約400もの橋でつなげられ、まるで魚のような形となった海上都市は、13~14世紀頃には東西貿易の要所として繁栄、水の都と謳われました。18世紀後半にはナポレオンの侵攻と、続くオーストリアへの併合によって、一時苦難を味わう事となりましたが、1866年、5年前に成立したイタリア王国へと編入されました。
ヴェネチアは現在、イタリア共和国の一都市として、ガラスの島ムラーノをはじめ、レース編みの産地ブラーノ、映画「ベニスに死す」の舞台ともなったリドなど約120の島々も合わせて、世界遺産に登録されています。
干潟地帯に避難していた5世紀頃のヴェネチアの人々は、精製した塩を販売し、ラグーナで獲れた魚や水鳥を食べて生活していたと言われています。現在もラグーナで獲れた豊富の海産物(魚やイカ、カニ、シャコ、エビ、貝など)が、ヴェネチアの食文化を彩り、小魚のマリネや、小エビ、シャコを使った前菜(アンティパスト)、イカスミのパスタやリゾット、魚介のフリットなどの伝統料理が人々に愛されています。
常に身近に存在し、人々を育んだ海の生き物たちは、ガラス職人にとっても制作のモチーフとなりました。20世紀に入ると、ヴェネチアン・グラスの伝統技法や鮮やかな色彩を用いた可愛い魚たちの表現をはじめ、アルフレッド・バルビーニ(1912~2007年)のようにリアルな海棲生物の表現に挑戦する作家も登場し、工芸の装飾に留まらないガラス表現の可能性を示しました。

※開催期間、出品作品等が変更される場合がございます。