ヴェネチアン・グラスと祝祭の都

2024年初夏所蔵作品展
祝祭の持つ意味と時を越えて人々を惹き付けるその魅力を
ヴェネチアン・グラスや坪谷隆氏の写真作品を通してご紹介

会期:2024年4月27日(土)~7月15日(月)

はじめに

ダイヤモンド・ポイント彫りレース坏 16世紀|ヴェネチア

16世紀頃のヴェネチア共和国には、思想家や芸術家といった人々が往来し、絹織物や陶磁器、香辛料などあらゆる物品が海上交易によって運ばれてきました。すでに13世紀~14世紀には、政治、経済的にも急成長を遂げており、共和国は東地中海の覇者として君臨していました。
ヴェネチアに莫大な富をもたらす海は、一方で制海権を巡る争いや度重なるペスト(黒死病)の流行など、様々な災厄も招き入れました。これらの困難から立ち上がり、世界に共和国の繁栄を誇示するため、また市民の団結を確認するためにヴェネチアが選んだ方法が、祝祭でした。ヴェネチアにとって、祝祭は宗教行事としてだけでなく、国家をまとめるための政治手段でもあったのです。
海上支配を宣言する「海との結婚」、ペスト終息に感謝を捧げる「レデントーレ祭」や「サルーテ教会祭」、歓楽の都として名を馳せるきっかけとなった「カーニバル」など、ヴェネチアの特色ある祝祭は、形を変えながら現在まで続き、今もなお人々を惹き付けています。
本展では、ヴェネチアの祝祭に相応しい華やかなヴェネチアン・グラスを展示し、時を越えて人々を惹き付ける祝祭の魅力と共にご紹介致します。また、会場内では坪谷隆氏のヴェネチアン・カーニバルの写真作品も展示致します。往時のヴェネチアに迷い込んだかのような煌びやかな世界をあわせてお楽しみ下さい。

第1章 春 「富をもたらす海との結婚 ~センサの祭り~」

「遠く異国を想う」 坪谷 隆

海と共に生きるヴェネチアでは、海に関する文化や伝統を伝える祝祭が大切にされてきました。
キリストの復活後40日目の木曜日に行うキリスト昇天祭は、ヴェネチアでは「センサ」と呼ばれ、レガッタ(ボートレース)や海上パレードなど、海にまつわる催しが行われます。中でも有名なのが、ブチントーロという豪華絢爛な御座船から、ドージェ(提督)がローマ教皇から贈られた金の指輪を海に投げ入れ、海を妻に迎える事を宣言する「海との結婚」と呼ばれる儀式です。16世紀には、ヴェネチア共和国の祝祭の中でも頂点に位置づけられていました。
西暦1000年に第26代ドージェ、ピエトロ・オルセオーロ2世によるアドリア海北部沿岸域の制圧を記念して行われるようになったこの儀式は、海と親しみ、航海の安全を祈るだけでなく、ヴェネチアによる海上支配の正当性を宣言するという政治的な意味もありました。現代では、ヴェネチア市長がドージェ役を担い、今日まで続いています。
ヴェネチアにとって、政治的にも経済的にも重要な場所であった海は、ヴェネチアン・グラスでも大切なモチーフの一つでした。この章では、センサの祭りと共に、船やドルフィンなど海にまつわる作品をご紹介致します。
船形水差
16世紀 ヴェネチア
 
獅子形水差
16世紀中頃 ヴェネチア
 
ドルフィン形脚キャンドルスタンド一対
19世紀 ヴェネチア
 

第2章 夏・秋 「安寧を祈る ~レデントーレの祭り、サルーテ教会祭~」

サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会とゴンドラ 坪谷 隆

14世紀、全ヨーロッパで猛威を振るったペスト(黒死病)は、その後数世紀に渡って流行と収束を繰り返しました。
ヴェネチアでは、1575年から77年までの流行の終息時にはジュデッカ島にレデントーレ教会が、ヴェネチア共和国の人口の3分の1近くが犠牲となった1630年の大流行の終息時にはサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会が感謝と共に設立されました。
救世主(レデントーレ)キリストに捧げられたレデントーレ教会では、毎年7月の第3日曜日を中心とした3日間、祭りが行われます。本島からジュデッカ島に渡るための船の浮橋が作られ、前夜祭では盛大な花火が夏の夜空を彩ります。
聖母マリアに捧げられたサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会の祭りは、奉献された1687年11月21日にドージェ、マルカントニオ・ジュスティアンが信心の証として、毎年この日に教会への参拝を誓った事から始まりました。ペスト撃退を記念して教会まで行進し、灯りをともした蝋燭を供える事で一年を健康に過ごせると言われています。
この章では、人々が安寧を祈る場所であった教会にまつわるヴェネチアン・グラスの作品と共に、ペスト終息を祝う祝祭を辿ります。
聖母マリアと嬰児キリスト
20世紀 ヴェネチア
 
十字架図
18世紀 ヴェネチア
 
聖骨容器型聖餐坏
18世紀 ヴェネチア
 

第3章 冬 「栄華極める歓楽の都 ~カーニバル~」

「プリマヴェーラ」 坪谷 隆

ヴェネチアの数ある祝祭の中でも、カーニバル(謝肉祭)は特に盛大に行われました。イエス・キリストの荒野での40日間の修行に因み、肉食を控えて祈りと慈善の時を過ごす四旬節の前に、大いに食べ、飲み、騒いで楽しみます。カーニバルが最盛期を迎えた18世紀には約半年も続き、多くの外国人旅行客がこぞって訪れ、ヴェネチアは歓楽の都として有名になりました。
海上都市であるヴェネチアにとってカーニバルとは、社会的身分や人間関係から解放される特別な期間でした。それを可能にしたのが仮面による仮装です。人々は、仮面を身に着け仮装する事で、リドット(賭博場)や劇場、カフェなどで身分の上下を問わずに交流を持ちました。厳しい現実から逃れられるカーニバルに、多くの人が熱狂しました。
第3章では、カーニバルの時期にも上演された即興仮面劇「コメディア・デラルテ」の俳優を表現したガラス人形や、春の訪れを祝うかのような下永瀬美奈子氏による華やかなヴェネチアン・ビーズ・フラワーの作品、花装飾のゴブレット、坪谷隆氏による現代カーニバルの写真作品を通して、今なお多くの人を魅了するカーニバルについてご紹介致します。
わらび形脚コンポート
19世紀 ヴェネチア
 
花装飾脚オパールセント・グラス・ゴブレット
1880年頃 ヴェネチア
 
コメディア・デラルテ 20世紀 ヴェネチア
 

ガラスビーズフラワー

春 “Primavera”

春 “Primavera”

春 “Primavera”
(2021~24年 下永瀬 美奈子)

18世紀頃に生み出された「コンテリエ」と呼ばれる極小ガラスビーズは、ネックレスをはじめ、ドレスやバッグの装飾として20世紀初頭のファッションを彩った。また、コンテリエ・ビーズ製の造花「ビーズフラワー」も、ムラーノ島の伝統工芸として数十年前まで職人の手で制作されていたが、その後、機械化生産の波が押し寄せ、伝統のビーズフラワー制法は失われてしまう。

下永瀬美奈子は、ムラーノ島最後のビーズフラワー職人から歴史と伝統を受け継ぎ、フォーミングという技法を用いて、より躍動感のあるビーズフラワーの造形を試みている。

坪谷 隆(写真家)TAKASHI TSUBOYA
坪谷 隆(写真家)
TAKASHI TSUBOYA


学生時代より写真に興味を覚え卒業後、単身渡米New Yorkで(CFプロデュ-サー兼アートディレクター、写真家)のジョージ ナカノ、後にヴォーグ誌,ハーパースバザー誌、マリークレール誌等で活躍していた写真家のブルース ローレンスの両氏に師事。4年間のNewYork滞在後、1976年帰国。
翌年、月刊コマーシャルフォト誌(玄光社)の特集“若手海外体験派カメラマン”として表紙写真と体験記事が掲載された。後に大手アパレルメーカー、化粧品会社、雑誌広告等幅広い企業から撮影依頼をうけ現在にいたる。
下永瀬 美奈子(ビーズフラワーアーティスト)
MINAKO SHIMONAGASE


1989年ニューヨークでビーズフラワーに出会いそのキャリアをスタートさせる。その後、イタリア・ヴェネチア発祥のビーズフラワー、その歴史と伝統をGiovanna Poggi Marchesi(ジョバンナ・ポッジ・マルケージ)氏より受け継ぎ、後継者として日本とイタリアで活動。「ビーズを繋ぎ、人を繋ぎ、心を繋ぐ」をテーマに両国の技術を融合させた新たなビーズフラワー「I Fiori di Vetro」の制作に取り組む。世界最大のビーズフラワー、「希望の桜」(H200㎝×W300㎝)を企画・プロデュースし、代表作「飛翔」がムラーノ・ガラス美術館に寄贈されるなど、ビーズフラワー界の第一人者として活躍を続けている。2023年9月にヴェネチアで開催された「第7回ヴェネチア ガラスウィーク」では、モチェニーゴ宮殿美術館での展示が最高位の「ヴェネチア財団賞」に輝くなど、彼女の独創的な感性から生み出されるビーズフラワーの生命感のある表現が世界的に高い評価を獲得している。ビーズフラワースクールCandy Garden主宰、日本ビーズフラワー協会会長
音声ガイド
お手持ちのスマートフォンから、QRコードを会場で読み込んで頂くと、展示作品の解説を聞くことが出来ます。(無料サービス)
独自アプリ等のインストールは不要です。普段使用されているブラウザでご利用いただけます。
※展示会場内ではイヤホンのご使用、またはスマートフォンのボリュームを下げてご利用ください。
 
表題 ヴェネチアン・グラスと祝祭の都
会期 2024年4月27日(土)~7月15日(月)
時間 午前10時~午後5時30分(ご入館は午後5時まで)
休館日 会期中無休
入館料 大人1,800円 大高生1,300円 小中生600円

※出品作品は変更となる可能性がございます。

Online tickets

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