2024年辰年初春企画展

マエストロの華麗な妙技

─龍と生き物たちのヴェネチアン・グラス─
Spring exhibition 2024 Master's virtuosity Venetian glass decorated with dragons and creatures.

会期:2024年1月20日(土)から4月21日(日)まで

「イカ」(側面) 1950年頃|ヴェネチア|アルフレッド・バルビーニ作

はじめに

極限まで薄く吹いた器や多彩な技法、見事な装飾が施された脚部など様々な魅力溢れるヴェネチアン・グラス。国や時代を問わず、多くの人を魅了する繊細で優美な佇まいを作るには、熔けたガラスを巧みに操りながら成形する高い造形技術が求められます。

マエストロと呼ばれる熟練した技術を持つガラス職人は、熔けたガラスから龍やドルフィンなどあらゆる造形を滑らかな手つきで次々と創り出していきます。そうしたマエストロの華麗な技は、「A mano volante(軽業師の妙技)」と言われ、他国と一線を画す技術として、千年にも及ぶヴェネチアン・グラスの歴史を支えてきました。その妙技が存分に発揮された19世紀以降のワイングラスやゴブレットには植物や生き物などの繊細な装飾が施され、色も器形も華美な作風が人気を博しました。

今回は2024年辰年に因み、所蔵作品から生き物をモチーフにした躍動感あふれる装飾グラスを紹介します。龍やドルフィンなど、ガラス職人の豊かな発想力から創り出される生き生きとした姿、そしてユーモアのある表情などに注目しながら、ヴェネチアン・グラスの華麗な妙技の世界をお楽しみください。

第1章 龍とヴェネチアン・グラス

ヴェネチアン・グラスのワイングラスやゴブレットにあしらわれた繊細な装飾脚は、17世紀頃より制作が始まります。背景には周辺諸国でガラス産業が興隆したことにより、それまで欧州のガラス市場を独占する程のヴェネチアの勢いに翳りが見え始めたことにありました。

マエストロたちは事態打開のために新たな魅力を模索し、サーぺントやドラゴンステムといった、脚部に流線形の装飾を施した奇抜な作品を生み出します。それらの装飾坏は周辺諸国にも影響を与え、各地でヴェネチア様式と呼ばれる、ヴェネチアのスタイルを模倣したガラス器が制作されました。

この章で展示中のドラゴンステムの脚部は一見、龍をモチーフにした装飾には見えません。それは職人たちが造形技術を極めるなかで龍や蛇の原形を留めない程、モチーフを複雑化したからです。龍のモチーフは19世紀に再び登場し写実的に表現されています。この章ではヴェネチア様式の確立と龍の表現の変化などをお楽しみください。

双頭龍装飾水差
19 世紀 ヴェネチア 
宙吹き、型吹き、熔着装飾、金箔熔着
龍装飾ドルフィン形水差
19 世紀 ヴェネチア 
宙吹き、モール装飾、熔着装飾、金箔熔着
龍形脚キャンドル・スタンド
サルヴィアーティ工房
19 世紀 ヴェネチア
宙吹き、熔着装飾、金箔熔着
龍装飾水差
19 世紀 ヴェネチア 
宙吹き、金箔熔着

第2章 心の象徴とヴェネチアン・グラス

第2章ではヴェネチアやムラーノ島にまつわる生き物のモチーフを紹介します。ヴェネチアのシンボルは聖マルコを象徴する有翼の獅子で、時代を問わずヴェネチアン・グラスに表現されています。828年、ヴェネチア共和国に相応しい守護聖人の存在が求められるなか、福音書記者 聖マルコの遺骸が迎えられました。聖マルコは人々の信仰の拠り所となり、その象徴である有翼の獅子はヴェネチアン・グラスに様々な形で用いられています。

またムラーノ島のシンボルは雄鶏で、20世紀に入りモチーフとしてよく使われるようになりました。1923年、ムラーノ島はヴェネチア市へと併合されます。1291年からムラーノ島でヴェネチアン・グラスの技術を命がけで守ってきたガラス職人たちは、ムラーノ島民であることに誇りを持って生きてきました。そのためヴェネチア市民になることをすぐには受け入れられず、併合への反対運動のなかで雄鶏は島民の団結の証として用いられました。雄鶏にはそうしたガラス職人の島への深い想いが込められています。

マエストロは時代の流れのなかで人々の心までも巧みに捉え、ヴェネチアン・グラスに取り入れて表現しています。

獅子装飾乳白瓶
ミオッティ工房
18世紀頃 ヴェネチア
宙吹き、型押し
「雄鶏」
アウレリアーノ・トーゾ工房
デザイン:ディ―ノ・マルティンス
1954 年 ヴェネチア
宙吹き、レース・グラス、熔着装飾、金箔熔着
雄鶏文モザイク・グラス・アクセサリーセット
アクセサリー部分:1980-2010 年 ヴェネチア
制作 ジュージ・モレッティ
モザイク・グラス部分:1923 年-1924 年 ヴェネチア
制作 ウルデリコ・モレッティ

3章 海にすむ生き物とヴェネチアン・グラス

第3章では海の生き物をモチーフにした作品を紹介します。ヴェネチアはアドリア海に作られた海上都市で、アドリア海の海水と河川の淡水が出合うラグーナ(潟)には、魚やドルフィン、鳥などの様々な生き物が集まってきます。
19世紀、マエストロは身近で愛くるしい存在であったドルフィンや龍の落とし子などから着想を得て海棲生物シリーズを制作します。脚部に施された生き物たちは、水あめのように細工に適したガラスや約3万とも言われる多彩な色ガラスなどの素材の特性に加え、ガラスを扱うマエストロの高度な技術や感性によって、生き生きとした姿で表現されています。
自然豊かなラグーナを表現したヴェネチアン・グラスは、器本来の機能を超えて、造形芸術としても高く評価され、万国博覧会を通じてイギリスをはじめ、ヨーロッパで大きな人気を博しました。この章ではマエストロの妙技によって、海にすむ生き物の姿を繊細優美なヴェネチアン・グラスに見事に融合させた19世紀の華やかな装飾グラスをお楽しみください。

ドルフィン形脚ゴブレット
サルヴィアーティ工房
19 世紀 ヴェネチア
宙吹き、熔着装飾
ドルフィン装飾脚コンポート
20 世紀 ヴェネチア
宙吹き、熔着装飾、金箔熔着
「魚」
19世紀 ヴェネチア
宙吹き、熔着装飾
カワセミ
19世紀 ヴェネチア
ホットワーク
ドルフィン装飾脚コンポート
19 世紀 ヴェネチア
宙吹き、熔着装飾、金箔熔着

音声ガイド
お手持ちのスマートフォンから、QRコードを会場で読み込んで頂くと、展示作品の解説を聞くことが出来ます。(無料サービス)
独自アプリ等のインストールは不要です。普段使用されているブラウザでご利用いただけます。
※展示会場内ではイヤホンのご使用、またはスマートフォンのボリュームを下げてご利用ください。
 
表題 2024年 辰年初春企画展
「―マエストロの華麗な妙技-龍と生き物たちのヴェネチアン・グラス」
会期 2024年1月20日(土) ~4月21日(日)
時間 午前10時~午後5時30分(ご入館は午後5時まで)
休館日 会期中無休
入館料 大人1,800円 大高生1,300円 小中生600円

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