ヴェネチア、プラハ、パリ
三都ガラス物語
2023年度 特別企画展
-ヴェネチア、プラハ、パリ- 三都ガラス物語

世界中の人々に愛されているヨーロッパのガラス。歴史に翻弄されながらも、美しく花開いた欧州各国のガラス芸術の輝きは、今もゆるぎない伝統と確かな技術に支えられ、「本物の美」を私たちに伝えています。
イタリア、ヴェネチア共和国の下、近代ガラスの礎を築いたヴェネチアン・グラス。チェコ、プラハをはじめ神聖ローマ皇帝庇護下で発展したボヘミアン・グラス。そしてガラス屈指の透明度を誇り、フランス、パリの華やかな社交界を彩ったバカラ・グラス。
本展覧会では、ヨーロッパのガラス工芸を代表する三都市‐ヴェネチア、プラハ、パリ-をクロスオーバーさせながら、華麗なるガラスの世界をご紹介します。

1章 水の都のヴェネチアン・グラス
変幻自在の“海のガラス”

ダイヤモンド・ポイント彫りレース文坏 16世紀 ヴェネチア 箱根ガラスの森美術館 所蔵
柔らかな曲線に繊細さや儚さを感じさせるヴェネチアン・グラス。ヴェネチアのガラスはソーダガラスと呼ばれ、石英を主成分とした珪砂、ガラスの熔融温度を下げるアルカリ性のソーダ灰、ガラスの耐久性を上げるカルシウム分を含んだ石灰を熔かし合わせることで生み出されます。
海上貿易で隆盛を極めたヴェネチア共和国はシリア沿岸域より珪砂、エジプトからは海辺の植物を焼成し精製したソーダ灰を輸入しており、ヴェネチアン・グラスは船で運ばれた材料から作られる、まさに “海のガラス”と呼べるものでした。さらに、ソーダガラスには、熱してから固まるまでの時間が緩やかという性質があり、これがヴェネチアン・グラスに特徴的なイルカや龍、花などの繊細な装飾を生み出す技術(ホットワーク)を可能にしたのです。
また、15世紀に活躍したヴェネチアのガラス職人アンジェロ・バロヴィエール(1400-1460)は、珪砂などのガラス材料をさらに精製し、不純物を取り除いた高純度の材料を用いて、天然水晶のように無色透明なガラス「クリスタッロ」を生み出しました。クリスタッロをはじめとする彼やヴェネチアのガラス職人たちが生み出した様々なガラス技術は、いち早くガラス市場を賑わせ、その後のヨーロッパ近代ガラス発展の基盤となりました。

1500年頃 ヴェネチア
箱根ガラスの森美術館 所蔵

1880年頃 ヴェネチア サルヴィアーティ工房
箱根ガラスの森美術館 所蔵
2章 黄金の街とボヘミアン・グラス
“森のガラス”の細密彫刻

双頭の鷲文蓋付ゴブレット 18世紀前半 ボヘミア 町田市立博物館 所蔵
神聖ローマ皇帝カール4世の治世から “黄金の街”と称えられていたプラハに、17世紀再び都を置き、芸術や科学を振興したハプスブルク家の神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(在位1576-1612)の時代になると、カリガラスは精製技術の向上でより透明度の増したガラスとなります。水晶彫りの名工カスパー・レーマンがその宝石加工技術を応用してガラスに彫刻(コールドワーク)を施し、ガラスの魅力が存分に引き出すと、その輝きはプラハをはじめヨーロッパ中の宮廷を席巻。ヴェネチアにおいてさえ一時ボヘミア風のガラス制作が流行しました。
18世紀後半に入ると度重なる戦争でボヘミアン・グラスも苦境に立たされますが、金赤ガラスや、ウランガラスの登場、フリードリッヒ・エーゲルマン(1777-1864)によるイオン交換着色(ステイニング)という新たな色ガラス技法の発明により、再び復活を果たす事となりました。

18世紀前半 ボヘミア
町田市立博物館 所蔵

19世紀前半 ボヘミア
町田市立博物館 所蔵
3章 芸術と恋の都のバカラ・グラス
社交界を彩るクリスタルガラスの煌めき

金彩竹文花器一対 1878年頃 ロレーヌ地方 井村美術館 所蔵
バカラでは1816年にイギリス式の鉛クリスタルガラスの制作を開始。これは鉛を含有する事で光の反射・屈折率を高めたガラスで、通常の鉛クリスタルガラスが鉛含有率24%のところ、バカラは含有率30%を誇る「フルレッドクリスタルガラス」を開発。以後、様々な色彩のクリスタルガラスと高度なガラス彫刻技法を用いた高級ガラスを生産し、19世紀後半のパリ万博で三度にも及ぶ金賞を獲得しました。また20世紀初頭には、ジョルジュ・シュバリエ(1894-1987)が時代に呼応するアール・デコの美しく洗練されたデザインのガラスを生み出し、新たなバカラ・グラスを確立。パリの社交界をはじめ、いまや世界中の宴席や食卓を彩る高級ガラスブランドの代名詞となっています。

1870-1910年頃 ロレーヌ地方
井村美術館 所蔵

1900年頃 ロレーヌ地方
井村美術館 所蔵
パリのモードと香水
香りを視覚化する香水瓶
19世紀末から20世紀初頭にかけて、香水は大きな発展を遂げました。それまで調香師によって天然の香料から生み出されていた香水も、化学合成による新たな香りの登場や大量生産が実現し、誰もが手にすることの出来るものとなったのです。さらに、ファッションブランドの香水もこの時期に誕生します。コルセットから女性を解放するドレスを打ち出したオートクチュールメゾンのポール・ポワレが1911年にメゾン初の香水を販売、1921年にはシャネルが最も有名な香水「No.5」を販売し、香水とファッションは強く結びつけられるようになりました。
また、個々の香水のイメージを確立するための香水瓶のデザインにもこだわりや注目が集まり、19世紀末から20世紀初頭までの数年間で、バカラへのガラス製香水瓶の発注が約20倍以上にも急増しました。バカラが制作した手作りの貴重なガラス香水瓶が、さらにメゾンのブランド力を高めていったのです。

スキャパレリ社
デザイン:サルバドール・ダリ
ガラス:バカラ社
高砂コレクションⓇ

クリスチャン・ディオール社
ガラス:バカラ社
高砂コレクションⓇ

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※展示会場内ではイヤホンのご使用、またはスマートフォンのボリュームを下げてご利用ください。
主催 | 箱根ガラスの森美術館、毎日新聞社 |
後援 | 箱根町 |
協力 | 箱根DMO(一般財団法人 箱根町観光協会)、小田急グループ |
特別協力 | 町田市立博物館、井村美術館、高砂香料工業株式会社 |
監修 | 由水常雄(美術史家) |
※開催期間、出品作品等が変更される場合がございます。
パンフレットPDF
特別企画展図録
掲載作品数:71作品。カラー図版、用語解説。

発行 |
2023年 株式会社うかい 箱根ガラスの森美術館 |
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監修 |
株式会社うかい 箱根ガラスの森美術館 |
編集 |
箱根ガラスの森美術館 学芸部 |
制作 |
山田デザイン事務所 |
印刷 |
クオリティ・コミュニケーションズ |
項数 |
96項 |
サイズ |
A5 |
価格 |
2,800円(税込) |